今回は、謡の動画です。※観世流梅若

●能「鶴亀(つるかめ)」

あらすじ 時は新春、所は唐土である。四季の行事第一番の儀式に玄宗皇帝は正殿の玉座に出御し給う。一億人以上に及ぶ人民は足しげく続々と参向してくる。こうして一同が祝す音は天に届くように響き渡る。宮殿の庭には金銀珠玉が敷かれ、床は錦で覆われている。戸も、屋根裏の横木も、すべて七宝で飾られている。池の水際には鶴や亀が遊び、まるで仙人が住む蓬莱山のようだ。 時に大臣が進み出て、毎年のしきたりにしたがって月宮殿で舞楽を催されるよう申し上げる。めでたい緑の亀の色と丹頂の鶴とは、御庭に参向して相舞を舞う。彼らは千年万年のおのれの齢を君に捧げ奉る。

参考『梅若謡曲全集 中巻』能楽書林   『能の事典』三省堂

●能「草子洗(そうしあらい)」

あらすじ 清涼殿の歌あわせに「水辺の草」の題で、大伴黒主の相手は小野小町と定められた。苦しんだ黒主は供を連れてそっと小町の私宅へと忍び込み、歌を読むのを盗み聞きした。その上それを万葉集の草子(冊子)に書き入れて、古歌であると訴え出ようとしたのである。その歌は「蒔かなくに何を種とか浮草の波のうねうね生ひ茂るらん」であった。 さて、歌あわせ当日。時は四月なかばで、天皇の御前で歌あわせが始まる。仰せに従って紀貫之が小町の歌を読み上げ、帝のお褒めに預かった。しかしすぐに黒主が古歌だと言って、証拠に万葉集を取り出したから、一同は騒然となった。怒った小町は勅許を得て草子を水に洗った。すると入れ筆だから墨は流れて歌の文字は消えてしまった。面目を失った黒主は自害しようとしたが、勅定によってその罪はゆるされ、二人は和解する。小町は御前に舞を舞う。まことにのどかな春の歌会である。

参考『梅若謡曲全集 中巻』能楽書林   『能の事典』三省堂

●能「高砂(たかさご)」

あらすじ 九州肥後の阿蘇宮の神主友成が都に上る途中、播磨の高砂の浦に立ち寄って見物していると、老人夫婦が出てきて松の木陰を履き清めている。友成はこれを見て声をかけると、今掃いている木が「高砂の松」といわれるものだそうだ。翁は「高砂・住吉の松も相生のように覚え」という古今集の序について説明する。 高砂・住吉の松が遠距離にありながら「相生」といわれるのは、妹背の道の隔てない事による。 また高砂とは万葉集の時代、住吉とは醍醐天皇の御代のことだと教え、古今を問わず生きとし生ける一切の万物は皆和歌の姿をそなえているのだと説く。さらに和歌の故事をあげたのち、実は自分らは高砂、住吉の相生の松の精であると告げて、老人は小舟に乗って住吉の方へと去って行った。 友成もまたそのあとを慕って住吉に来てみると、「われ見ても久しくなりぬ住吉の岸の姫松幾世経ぬらん」、またその返歌「睦しと君は知らずや瑞垣の久しき世よりいはひそめてき」をつぶやきながら、住吉明神がその御本体を現される。青々とした月下の波間に立って、明神は清らかな舞姿を見せる。

参考『梅若謡曲全集 中巻』能楽書林   『能の事典』三省堂